カムイたちの黄昏、その5
・・・・・“ウフーソ・蛭児(ひるこ)”の想いから・・・・
島に最初に降り立った火伏の神”アキバヒノヤギ“は、イザナギの怒りに触れ切り殺された迦具土(カグツチ)の血から派生した神であった。
しかし蛭児(ひるこ)と同じように神としては自分の能力を使いこなせないところがある、少し気弱でお人よしなところがあった。
”アキバヒノヤギ“とは、存在自体が巨大な火力発電機と言っていい存在であった。
それだけに、水神というより火をさらに圧倒的な火でねじ伏せる山神が本質である。
己の力がどれほどのものかを量ることができない完成されていない神”アキバヒノヤギ“。
蛭児(ひるこ)は憑いている蝙蝠“ウフーソ”に誘(いざな)わせて島の北東の窪地のため池が真上にある洞窟に”アキバヒノヤギ“の鎮めの場を用意した。
”アキバヒノヤギ“は荒ぶることもなく島の人の為に、火伏の神として祀られることとなった。
程無くして、記紀にて“イザナギ”が黄泉平坂で追っ手へ“尻手に振られた”という十握剣(とつかのつるぎ)から清め落とされた黄泉醜女(ヨモツシコメ)の残滓がこの島へと“天への梯子“と名付けられた虹の道を辿って降りてきたのであった。
シコメ“は、万物の4大元素と呼ばれる「火・水・風・土」のうち火(熱・物質を変性させるエネルギー)を操ることに長けていた。
この島に火伏せの神の一人が居ることを“シコメ”は嗅ぎ分けた。
“シコメ”は己が髪の毛を引き抜き、吐く息で飛ばして何千というシコメの軍勢”ヨモツイクサ“を造りだした。
”アキバヒノヤギ“が祀られ鎮座していた憑代(よりしろ)の岩の盤座を取り囲み盤座を揺らしたのである。
驚いた”アキバヒノヤギ“が放つエネルギーを、シコメの軍勢”ヨモツイクサ“が伝導体として”シコメ”へと送り出す。
エネルギーを吸い取られ弱体化した”アキバヒノヤギ“は、己のために更に補充エネルギーを注ぎ足す。
”アキバヒノヤギ“は“シコメ”の計略に貶められ、”シコメ”は無限のエネルギーを掌中に収めたのであった。
”アキバヒノヤギ“は、”ヨモツイクサ“に囲まれ島のニシ(北)の一角に押し込められてしまった。
蛭児(ひるこ)は手をこまねいて、見守るばかりであった。
やがて、”シコメ”は、火伏の神”アキバヒノヤギ“のエネルギーを利用し強力なバリアーを島の外に張り巡らせた。
島は負の結界に覆われた。
島は、混沌と狂気が交錯するエネルギー磁場と化した。
島は、“シコメ”の霊力により重くたちこめた黒い霧と、雷鳴が雷鳴を呼び岸壁に打ち寄せる波が、地上高く砕け散り“幕”と呼ばれる丘陵地帯を超える暗霧の世界に満ち満ちた。
その頃合いに、蛭児(ひるこ)は海の神“スサノオ”へと助けを求めたのであった。
蛭児(ひるこ)は付喪神(つくもがみ)として蝙蝠“ウフーソ”の体内に潜んでいたので黄泉醜女(ヨモツシコメ)の探索の霊針には探知されなかった。
蛭児(ひるこ)の助けの求めに応じて“スサノオ”から剣を遣わされた“アカハチ”は、青い龍にまたがりウフアガリの島を目指した。
島は、鈍色(にびいろ・濃い灰色)の結界でおおわれているように見えた。
天駈ける青龍が発する燐光のようなオーラが、島の負の結界に触れるや否や、幾重にもめぐらされた結界バリアーから赤や紫の閃光がほとばしりアカハチごと青龍は数キロ、跳ね返されてしまった。
“アカハチ”は、十握剣(とつかのつるぎ)を振りかざし何度も結界を突き破ろうとするが、そのたびに跳ね返されてしまう。
シコメだけならまだしも、巨大で無制限のダイナモのようなアキバヒノヤギのエネルギーは、“アカハチ”の親神スサノオでない限り対抗できないほどの強さだった。
鈍色の結界は、雲のように自在に踊る。
結界に触れることにより、結界は仇名す者を探知する。
長い帯のように一角が伸び、その中からシコメが黄泉の国の軍勢ヨモツイクサが躍りかかってくる。
幾たびも授けられた剣(十束剣)を抜き放ちヨモツイクサを切り払うが、雲霞のごとく湧き上がってくるばかりであった。
消耗戦のような無限の戦いの中で、アカハチはもがいていた。
“(本体のシコメの位置すら掴めない。)”
島内で待つ蛭児(ひるこ)からは、天空で不気味に閃光が走り、赤い雷鳴がとどろくのが目視できるばかりであった
十束剣への“アカハチ”のエネルギーが足りないのである。
“スサノオ”に助けを求めることはできなかった。
アカハチは心を決めた。
一転、アカハチは青龍とともに天高く暗雲の中を抜け宇宙空間まで駆け上がっていった。
宇宙空間は漆黒の闇に包まれている。
曇ることない満天の星が瞬いていた。
瞬きは遠い昔、星が発した巨大なエネルギーが光となって時を行き着く先もなく進んでいくもの。
“アカハチ”は、十束剣に集められるだけの星のエネルギーを集中させ始めた。
星の光のエネルギーを受けて、剣は少しづつ青白く輝きを放つ。
やがて、アカハチも龍も輝き始めた。
異星のエネルギーは、剣自体の本来の由来を崩壊させる。
集めた光のエネルギー、一つ一つに異なる物語が存在するのである。
自らの持つエネルギーの限界を突き破るには、剣の限界点を超えたエネルギーを新たに与えなければいけないと“アカハチ”は考えたのである。
長剣である十束剣の輝きはますます増していき、やがて“アカハチ”と青龍は剣の光の中に取り込まれ始めていった。
剣に同化され失われていく意識の中で、はるか下方の島の中枢部分に赤黒く島の中で光を放つものが見えた。
“シコメだ!”
“アカハチ”の意識が初めて”シコメ”を捉えた。
“いくぞ!“
1本の流星と化した“アカハチ”と青龍は、“赤黒く光を放つもの”へと流星のように落ちていった。
天空より光の矢が結界に向かい、恐ろしいスピードで突きかかっていった。
張り巡らせた結界の雲の中から、光を発した“それ”が自分に向かってくるのをシコメは一瞬だが目にとめた。
しかし、”それ”はあまりにも一瞬でわが身に落ちてきた。
シコメの視界いっぱいに白いまばゆいばかりの輝きが広がった。
瞬間、島は裂けた。
このとき、ウフアガリの島は、北と南の島に裂けたのであった。
剣はアカハチを閉じ込めたまま、シコメを刺し貫き地中へと突き刺さった。
火伏の神”アキバヒノヤギ“はヨモツイクサの呪縛から解き放たれ、北の島の一角に放り出された。
シコメの体は、剣に縫い付けられた。
剣の先端が突き刺さった衝撃で砕け散った。
青竜は、砕けた剣の先からこぼれ落ち地中にその体を横たえた。
砕け散った剣先は、黄泉醜女(ヨモツシコメ)をちりじりにして縫い付けてしまった。
龍は、地中に埋まった。
埋まった龍の胎内は地中で空洞となった。
所々に、星のエネルギーが光のしずくとなって、龍のたてがみや骨を濡らす。
龍の体の中の空洞は、そのまま星のしずくが輝く鍾乳洞になった。
“アカハチ”と黄泉醜女(ヨモツシコメ)の勝負は、一瞬の大音響と地殻が裂けた大変動で終わった。
空には、青空が戻った。
夜には、満天の星が輝く世界が戻った。
南の島の西北だった部分に剣が突き刺ささりシコメが縫い付けられてしまった場所は、二つに裂けたため、島の北側になった。
海の向こうには、北のウフアガリの島がみえる。
しかし、その地域の一角にはいまだに結界の衣の残滓を漂わせていていた。
近づくものに不死の軍団となったシコメの軍勢”ヨモツイクサ“が黄泉醜女(ヨモツシコメ)を守るために近づくことを許さない地となった。
霊剣、十握剣(とつかのつるぎ)は何人も抜くことがかなわぬまま鍾乳洞“星の洞窟”奥深く、いまだにそのままの姿で岩に刺さったままなのだ。
夜な夜な、“アカハチ”であったものが剣を抜け出し、地表をさすらう。
還るべき体もなく彷徨うのである。
“アカハチ”には蛭児(ひるこ)ですら認めがたくなっていた。
“アカハチ”の一念だけが黄泉醜女(ヨモツシコメ)を意志の力で縫い付けていた。
鬼女シコメが滅びたとも言い切れぬし、アカハチがいつまでその強靭な意志で押さえつけることができるかもわからない。
こうして、アカハチを閉じ込めてシコメを縫い付けた剣は、男具那と伽那志がやってくるまで“ウフーソ”と蛭児(ひるこ)にとって永い休息の時を与えていてくれたのであった。
男具那と伽那志は、じっと蛭児(ひるこ)の思い出に触れていた。
二人は聞かずとも、想いに触れるだけで記憶を共有できるようになっていた。
蛭児(ひるこ)は思考意識を続けた。
“十束剣には剣を収める鞘がある。”
“十束剣は鞘に収めなければ、自らを傷つける剣である。”
“傷つけられし者は、鞘の中に吸い込まれて集められる。剣の周りを彷徨っているヨモツイクサの亡霊は傷つけられし者だ。また“アカハチ”も傷つきし者だ”
“十束剣に近づくには、鞘がいる”
“女よ、お前の佩きしその珠は傷つけられし者に反応する。”
“多くが集められたその鞘の行方を探ってみよ。“
カナシは、佩いていた勾玉をかざし、目を閉じ廻り始めた、だれに教えられたともないのに・・・。
二人がいるところは、南のウフアガリの島の中央部西際に位置したところである。
勾玉はそれからまっすぐ北の方角になったとき、明るく輝き始めた。
目指すものがある方角だった。
捜し出し取り戻すようにと 姿なき声に啓示された十握剣(とつかのつるぎ)が、其処にあった。
二人は前に進まなければいけなかった。
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天照は“スサノオ”から取り上げた十握剣(とつかのつるぎ)が弟“スサノオ“により持ち出されていたことを、見抜いていたのであった。
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