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2013年11月21日 (木)

カムイたちの黄昏、その4

・・・・・・雷に打たれた火柱の中で・・・・・・・

どちらともなく曳(ひ)かれるように抱き合った二人は、自然に唇を合わせた。

抱き合う二人の空間だけが青白い透明な“繭(まゆ)”に包まれている。

二人は、光の柱の中にいた。

絡み合うように一対になり求めあい、互いの意識が1つに溶け合っていった。

二つの意識が一つになり頂上へと駆け上がっていく。

「無我」が拡がっていく。

やがて、時もなく距離もなく二人は、ただその空間に浮かんでいた。

そして、二人の意識だけは1つになって、目の前の光景を見つめていた。

この世の創生、遥か自分たちが今此処にいることの証(あかし)としての幾世代遡った父や母のそのまた父や母の姿がそこにあった。

膨大な過去が、光り輝く知識の粒となって二人に降り注いでくる。

天のパノラマとなって流れて行く。

いつしか二人は、「今、自分たちが何故いる」という意識に到達した。

・・・かって二人は一人であった。

 

造りし者の意思の宿命を背負い、一つのものが分かれて二人、時には三人となり気の遠くなる時間を人として、命をつなげてきたのだった。

二人は全ての平衡(バランス)を保つための調整の役割を負っていく時代も生まれ変わってきたのだった。

二人のはるか先、天空に大いなる光に包まれた環が見えていた。

還るべきところ・・・。

二人のひとつの意識が、その環に近づこうとした。

 

突然、声がおりてきた。

「光の環にまだ近づいてはならぬ。」

「この光の環、終(つい)にはおまえたちが還るところであるが、いまだその時ではない」

「はなれよ。」

「お前たちが何の為に存在してきたか?何ゆえ此処にいるか?を伝えるために、今ここにいるのだ。」

「お前たち二人は、天・地・根を司る「和」が乱れたときに現れる役目を託されて生まれてきたのだ。」

「そして正しくは、お前たちは三人なのだ。」

「“和”とは、”つくりしもの”が与えた三つの器にて保たれるもの。」

「一つは、“剣”邪を払う、二つ目は“勾玉”おのれ以外を慈(いつく)しむ愛の心、三つ目は“鏡”おのれの心を鎮め映す。」

「いま邪により“剣”の守りが破られようとしている。」

 

いきなり降りてきたとしか説明のつかない“声”はさらに続けた。

「おまえたちは、それを守るために地上界に遣わされたのだ」

「今ここに宿命(さだめ)を、悟るために来たのだ」

「護らなければいけない剣は三振りある、十握剣(とつかのつるぎ)、天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ・草薙の剣)、布流剣(ふるのつるぎ)だ。」

 

男具那、お前が持つ剣はそのうちの一振り天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)。そして、伽那志。お前が祖母クスマヤーから授かった、タカラガイの首飾りは、持つに相応(ふさわ)しい者が掛けるとその者にふさわしい輝きを放つ光の勾玉となり、本来の姿を現(あらわ)す物なのだ。」

 

息もつかず、光の環の前で繰り広げられる光景にただ見とれるばかりだった二人が、伽那志の胸元に目をやると、タカラガイだった首飾りが薄紅色に光彩を放つ勾玉の首飾りへといつの間にか化転しているではないか。

息をのむ二人に、「声」は続ける。

「(心・くくる)とは想い。その想い(うむい)のありたけが曇りなく映し出すために“鑑・かがみ”が必要なのだ。」

「おまえたちがその3つを備えたときに()がもたらせられる。」

「“鑑”はお前たちを試すだろう」

「声」は、しばらく沈黙を続けてから話を続けた。

 

「調(ととのえ)えられたすべてで、和(この世のバランス)が整えられるわけではない。」

「お前たち自身の心(くくる)の強さ・清らかさが鑑の創出に必要とされるのだ。」

「持つか、持つにふさわしいかの試練がおまえたちを待っているだろう。」

「それが相応しくなければ、あるいは固辞するならば、おまえたちにあの(光の輪)をくぐることを許そう。」

 

二人は目をみ合わせた。

 

光の環とは、生きとし生けるものが終(つい)に還るべき旅立ちの“門”であることは、すでに気づいていた。

目を凝らすと、ほとんど透明になったような淡いシャボン玉のようなものが、“光の環”へと吸い寄せられフッと速度を増したかと思うと吸い込まれていくのがみえる。

「魂(ちむ)だ。」

 

「魂はこの“光の環”のまえで、一瞬にその過去のすべてを振り返る。」

「想いを残すことがないものは、この環をくぐる」

 

繰り広げられた光景や降り注ぐように沁みこんできた“知識”はあますことなく、その意味を二人に伝えていた。

 

言葉もなく想うだけで心が通じ合うことに驚きを感じながら二人は、互いをたしかめあった

二人は(降りてくる声)に想念を送った。

「諾」と。

声が言う。

「琉の島より子夘辰(東南)の方角、海果つるところに島がある。」

「島の名はウフアガリ。」

 

そこに遥か昔倭の地から遣わされた“ハチジョウアカハチ”という男がいる。

「もとは人であったが、持ちし剣(つるぎ)の魔力に負けて剣の付喪神になり霊力に操られておる。その男の守る剣こそ、十握剣(とつかのつるぎ)という霊剣のうちの1振りなのだ。」

「この男の宿る十握剣(とつかのつるぎ)は、今や“邪”への統制が利かない

。何度も言うようであるが手にするものの”心(くくる)が大切なのだ。」

 

(声)は遠ざかって行った。

 

二人の視界と視界が閉ざされていき、突如として中空に浮いた状態の二人の意識の底が割れた。

二人は闇の中に放り出され、トンネルの様な中を信じがたいスピードで滑り落ちていった。

二人は気を失った。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・二人が目覚めると。

供物が捧げられている泉のほとりに横たわっていた。

どこかの御嶽(うたき)とおもわれる。

御嶽とは、神が地上に降りるときに使われる出入り口、門の役割を果たすところである

 

 

 

 

ウフアガリの島にて(うふあがり遥か東の彼方という古琉球の言葉“)

 

二人が降り立った島は、天照大神の差配する領域の最西端にあたる島であった。

 

琉の島からは“あがり“すなわち太陽・ティダが昇る東に位置するが、倭からみれば西イリ”若しくは南フェイ・ハイ“の方角である。

 

神々が生まれるもっと前のことである。

島は環礁というドーナツ型のサンゴ礁であった。

サンゴの屍が累々と築きあげられ、海面からせりあがって出来た島である。

そして、地の底の移動(フィリピンプレート)とともに、遠く南の海から気の遠くなるような時間をかけて北へと移動してきた異郷の地なのである。

カルデラという地形に似ていて、外輪山(がいりんざん)に当たるのが幕(まく)と呼ばれる競り上がった外壁のような地形である。

 

大海の孤島という外見の荒らしさと別の静寂な空間で,内輪部分は満たされている。

秋葉(あきば)という名の社・祠は今でも全国に多い。

これは、概ね“火伏・ひぶせ”や“鍛冶・かじ”の神を祭ってある。

 

“イザナギ”と“イザナミ”との間に生まれた火の神“カグツチ”が“イザナミ”の陰部・ホーを焼き尽くし産み母“イザナミ”を黄泉へ送った。

逆鱗した“イザナギ”は持っていた十束剣(とつかのつるぎ)で“カグツチ”に切りかかった。

切り殺された“カグツチ”の血が飛び散り再び神々が産まれた。(古事記より)

飛び散った血の一部は、この島に落ちた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

“蛭児(ひるこ)”は、二人の男女が突然空間を割いて現れたことに驚いていた。

(禍が来たのかしら?)

“蛭児(ひるこ)”は、御嶽(うたき)の見えるサンゴの石灰岩の割れ目にいた。

長い年月を生きて“高いセジ(霊力)がついた蝙蝠に蛭児(ひるこ)は憑いていた。

蝙蝠はイザナギ・イザナミの神に捨てられた“蛭児(ヒルコ)の霊力による化身である。

(蛭児(ひるこ)とは、神として生まれながら三歳になっても脚が立たなかったので天磐船(あめのいわふね)という天空を駈ける船に乗せられて放ち棄てられた神である。)

 

蛭児(ひるこ)は風の間にまを漂いながら、この島に降り立った。

蛭児(ひるこ)は、心が傷ついていた。

祖神の期待に応えられなかった自分に傷ついていた。

長い年月を経てきているが、好奇心が強く生命力あふれる“ウフーソ”という蝙蝠がいた。

 

蛭児(ひるこ)はこの老境の蝙蝠に憑くことによりその身を永遠に隠していたのである。

ウフーソ”の中に蛭児(ひるこ)が憑くことにより、“ウフーソ”は付喪神となりこの地で御嶽として祀られるようになった。

この島に降り注ぐほどに天を覆い尽くす星の数の年月(としつき)・・・島の中は平穏だった。

その時から、“ウフーソ”は年をとらなくなった。

自分の実態さえ分からなくなっていた。

普段は、祀られている御嶽(うたき)の傍の石灰岩の洞窟に“ウフーソ”はいる。

気を失っている二人に、セジ(霊力)で御嶽の泉の水の飛沫を降り注いだ。

二人は目覚めた。

あたりを見回す二人をしばらくの間観察していた“ウフーソ”は持ち前の好奇心で声をかけた。

二人の心へと。

「あなたたちは、誰なの?何しに来たの?」

一瞬二人はあたりを見回したが、(降りてくる声)の経験が、二人の驚きを静めた。

「失われた“剣・つるぎ”を探しに来たのです。」

「剣?」

「“剣”の名は、十束剣(とつかのつるぎ)と言います。」

 

「なんと!だいそれたことを。やめときなさい!」

「知っているのですか?その“剣”がどこにあるのか」

「知っているも何も、その“剣”はどこへもこの島から持ち出せないよ」

「あるのですね?」

「あることはあるのだけどね・・・・。」

 

“蛭児(ひるこ)”が思い出していた。

彼女が憑いた蝙蝠が、まだ今より若く仲間たちと夜の闇に月桃のかぐわしい香りに誘われて恋を語らっていた頃の話である。

夜空が燃えるように赤く染まり、天空の一角が轟音と共に大爆発を起こした。

幾千もの光が空一面に飛び散って落ちていった。

(それは、“イザナギ“が“カグツチ”へ怒りにまかせて“剣”を振り下ろしたときの事であった。)

その1本が矢のように、“島”へと一直線に落ちてきたのだ。

光の矢は“幕”の内側の密林に突き刺さり、燃え上がりあたり一面を焼き尽くした。

ウフーソたち蝙蝠は、逃げ惑った。

 

一人の男が、焼け跡に立っていた。

琉の島では“ヒヌカン“と呼ばれている火伏の神”アキバヒノヤギ“が降りてきた瞬間であった。

ウフーソたちは、ようやくのこと、岩の割れ根や洞窟に逃げ込み難を逃れていた。

やがて、焼け跡の場所に雨が来た

そのあと、遠く天空まで途切れず続く“虹”がかかるようになった。

(天空への路)の誕生したのだ。

その後、天空ではイザナギがイザナミを追って“黄泉の国・根の国”へと足を踏み入れていた。

ほうほうの体で、黄泉比良坂(よもつひらさか)から逃げ帰ったイザナギが黄泉の国の“穢(けが)れ”を落としたとき、黄泉の“悪霊”もふるい落とされ天空の路より島にこぼれ落ちてきた。

黄泉醜女(ヨモツシコメ)である。

黄泉醜女”は黄泉の鬼女である。

食らい尽くすことでも救われぬ“飢餓”に住む鬼女である。

わずかではあったが、流れ着いた人々が島に住んでいた。

黄泉醜女は、この島をわずかのうちに飢餓の島に変えた。

黄泉の鬼女は、物を食らわない。

“こころ”を食らうのである。

人々は争いその憎しみや我欲の心を発露するようになった。

黄泉醜女はそれをむさぼり食らった。

 

島は、暗雲がいつも垂れ込めたようになった。

 

蛭児(ひるこ)が静かに隠れて暮らす“島”の安寧が破られようとしていた。

蛭児(ひるこ)弟は海の荒ぶる神、“スサノオ”である。

(妹として、太陽を司る三神ティダアマテラス・天照大神・モシリコロフチ、弟の月を司る“ツキヨミ”などがいる。)

十束剣(とつかのつるぎ)は黄泉の国からの“イザナギ”の逃走に力を発揮した。

一度は、悪霊の追撃を振り切ったはずの十束剣(とつかのつるぎ)を持つスサノオに、蛭児(ひるこ)は救援を求めたのだった。

剣を携えて遣わされたのが、“ハチジョウ・アカハチ“であった。

絶海の孤島で、黄泉の国で繰り広げられた戦いが再び繰り広げられたのであった。

 

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